かわいい名をして侮れない「ピロリ菌」【前編】

消化器内科

 

どうも、こんにちは。

今日が「おにぎりの日」だということで、ふと軽い気持ちで「おにぎり」「おむすび」との違いについて調べ始めたら、話を平安時代にまで遡らされた挙句に、結局は「諸説紛々です」という“玉虫色”の結論に落ち着かされてしまい、どうにも不完全燃焼な気分の山城です。

 

『日本古来の神様に由来すると考えられる「おむすび」は、神が宿るとされる「山」の形を模して「三角形」に握られている一方で、「おにぎり」には特に定められた形はない』といった説なんかもあって、当たり前に根付いている身近な文化を紐解いてみるのも、何とも面白いものですね。

まぁ、その説を目にして感心していた直後に、まったく逆の定義を主張する説も見かけた時には、思わず脱力してしまいましたが(笑)。




さておき、日本のソウルフードに想いを馳せるのもそこそこにして本題に入っていきたいと思うのですが、本日のテーマは、ずばり「ピロリ菌」

しかも今回は、いつもと少し趣向を変える意味も込めまして、久方ぶりに「前編」と「後編」に分け、2週にわたって「ピロリ菌」についてお話させていただきたいと思います。

 

さて、おそらく誰もが一度はその名を耳にしたことがあるだろう「ピロリ菌」ですが、「ヘリコバクター・ピロリ菌」というのが正式名称です。

このピロリ菌は、胃の中に感染するばい菌なのですが、実は1985年に初めてオーストラリアのマーシャル博士によって発見・命名されたばかりの比較的に新しい菌。ちなみに、マーシャル博士はこの菌の研究によって、2005年には共同研究者のウォーレン博士と共に「ノーベル医学賞」を受賞されています。



「ノーベル医学賞なんて御大層な賞をもらえるほどの発見なの!?」と驚きの方もいらっしゃるかもしれませんが、もう少しピロリ菌について詳しくなっていただけたら、きっと納得してもらえることでしょう。

 

このピロリ菌、一言で言ってしまえば「悪者」です。

胃の中に感染してしまうと、それこそ何十年という長い時間の経過の中で「胃潰瘍」や「胃がん」を引き起こす原因となるばい菌として知られています。

 

また、日本人の多くが感染していることもでも知られており、少し古いデータなので多少の増減はあると思われますが、40代以上の方で言えば「4~5割」程度、60代以上にもなると「6~8割」以上もの方が、このピロリ菌に感染しているとされています。

ざっくりと概算で言ってしまえば、日本国内には「5,000~6,000万人」前後の感染者が存在していることになる訳です。

 

 

 

ただし、ピロリ菌に感染しているからといって、必ずしもいずれ「胃潰瘍」や「胃がん」に罹ってしまうという訳では、決してありません

いわゆる「無症候性キャリア」と呼ばれる人たちが大半でして、たとえ胃の中にピロリ菌がいたとしても何事もなく過ごせる場合の方が多いので、そこはひとまずご安心ください。

 

ですが、それでもやはり一定の割合で「胃潰瘍」や「胃がん」を発症させてしまう人たちがいることも事実であり、そしてその発症のプロセスには、問題のピロリ菌が密接に関わっていることも、既にこれまでの研究によって証明されているんです。

 

 

きっと、皆さんはいま「いやいや、そこまで分かっているなら、どうにかしてちょうだいよ」とお思いのことでしょう。

実は幸いなことに、この厄介極まりないピロリ菌は、除菌による治療が可能なんです。

 

しかも、以前までは、実際に「胃潰瘍」や「胃がん」といった症状を患っていなければ保険適用の対象外とされていましたが、現在では「ピロリ菌が体内に存在している」ことが確定すれば、その治療には保険が適用されるように制度も改正されています。

 

制度が改正された当時は、『(ピロリ菌による)「胃炎」という病名が付くだけで、除菌治療が保険適用になるぞ』と、僕たち消化器内科医などの間では興奮と歓迎の声が上がり、一時は「日本の医学の歴史が変わるぞ!」という熱い気運にさえ包まれていたほどでした。

医学界的にはそれだけ重大な出来事だった訳ですが、何故それだけの盛り上がりを見せることになったかは、この「ピロリ菌」という菌の“恐ろしさ”を知ってもらえれば、ご理解いただけることでしょう。

 

 

実はこのピロリ菌、「胃潰瘍」や「胃がん」を引き起こす大きなリスク要因となるだけにとどまらず、「血小板減少性紫斑病」というちょっと珍しい血液の病気や「悪性リンパ腫」などのほか、さらには「難治性の蕁麻疹」などの「アレルギー体質」にまで悪影響を及ぼすとされているんです。

そのため、ピロリ菌を体内から駆除することで、長年ずっと苦しめられていた蕁麻疹がめっきり完治してしまうような体質改善にも繋がる可能性がある、とさえ言われています。

 

理論上、国民全員からピロリ菌を除去することができたならば、「胃潰瘍」や「胃がん」に苦しむ人の数が激減し、さらにはピロリ菌がリスク要因となる様々な病気の発症リスクをも大幅に減少させられることになる訳ですから、当時の医師たちが興奮するのも、ある意味で当然だったと言えるでしょう。

 

こうして、「ピロリ菌」の恐ろしさを正しく理解した皆は、一緒に仲良く手を取り合って「ピロリ菌」を根絶やしにして、「胃潰瘍」や「胃がん」のない平和な世界で、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

めでたし、めでたし。

 

 

 

──などと、そう易々とはハッピーエンドを迎えさせてくれないのが、やはり世の常というものなのかもしれません。

実は、この「ピロリ菌の除菌治療」の裏側には、思わぬ“落とし穴”が存在していたことが徐々に明らかになってくるのですが、そのことについては、また「後編」にてお話させていただきたいと思います。

 

なお、気になる“落とし穴”のことはさておき、ピロリ菌を除菌することに上述したような「明確なメリット」が存在していること自体は、医学的に証明されてきた疑いようのない事実です。

ですので、以前から「どうも胃の調子が悪い」とか「食後に胃もたれや胃の痛みが出る」などの症状が気になっている方や、あるいは近いご家族やご親戚の中に「胃潰瘍」や「胃がん」を患っている方がいるような場合には、まずはお気軽にお近くの医療機関までご相談してみてくださいね

 

山城   

消化器内科豆知識
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